天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
咲良は、息を切らせながら住宅街の角を曲がった。

細くて、地図にも載らないような裏道。
けれど──ここは確かに、彼と出会った場所。

あの日、絵を描く音。
冷たい夜風。
そして、振り返ったレオンの青い目。

すべてが、焼きついている。

(間に合って……)

祈るように走ったその先、
開けた交差点に、ひとつの影が立っていた。

金色の巻き毛が、風にふわりと揺れる。

咲良の足が、ぴたりと止まった。

横断歩道を挟んだ向こう。
信号がちょうど赤に変わり、車の流れがふたりの間を断ち切っていた。

でも、視線は、まっすぐつながっていた。

レオンも、咲良を見ていた。
驚きと、安堵と、懐かしさと──言葉にできない想いをたたえて。

何秒も、何分にも感じられた。

咲良は、口を開いた。

けれど、何も言えなかった。
息だけが、静かに震えた。

レオンが、小さく笑った。

「……さくら」

声は届かなかった。
車の音が、すべてをかき消していた。

でも、咲良には聞こえた。
たしかに、名前を呼んでくれたその声が。

信号が青に変わる。

咲良は歩き出した。
レオンも同じように、ゆっくりと歩を進めた。

ふたりの影が、アスファルトの上で少しずつ重なっていく。

そして、真ん中で出会った瞬間。
咲良は、彼の名前を、確かに口にした。

「レオン」

それは、涙混じりの、でもどこまでもまっすぐな呼びかけだった。

レオンの腕が伸びる。
咲良が駆け寄る。

ようやく、ようやくふたりは──再び、ひとつの絵になった。
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