天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
「レオンさんは、日本に来てからも大人気ですね!
 SNSのフォロワー数は、たった1週間で20万人を超えました!」

ワイドショーのMCが、画面越しに興奮気味に語る。

「そしてこちらが、彼の最新作。
 代官山の裏通りに描かれた『虹の記憶』。話題のミューズとの関係も、気になるところです!」

カメラが切り替わると、笑顔のレオンが映った。

黒のジャケットに、柔らかいカールの金髪。
あの頃と変わらない青い瞳は、画面越しでも人を惹きつけてやまない。

隣のソファでその番組を観ていた咲良は、
クッションをぎゅっと抱えながら、テレビに目をやっていた。

「……すごいね、レオン。もう『覆面』じゃないのに、こんなに人気なんだ」

レオンはキッチンでコーヒーを淹れながら、軽く肩をすくめた。

「まあ、取り上げられるのがどんなかたちでも、
 絵を見てくれる人が増えるなら、それでいいよ」

「……そう、かもね」

咲良は、少し笑った。
けれど、胸の奥には小さな棘が刺さったままだった。

(取り上げられるのが、どんなかたちでも──)

たしかに彼は現実的だ。
理想よりも、届けることを優先できる強さを持っている。

それは尊敬すべきことだとわかっている。
だけど──

(ほんとうに、あれでよかったの?)

咲良は、あの虹の絵の横に自分の姿があることを思い出す。

彼に描かれたことが、誇らしくて、うれしくて、愛しくて──
だけど、今やその絵も、レオンの話題性のひとつとして扱われている。

(わたし、ただの飾りだったのかな)

そんな風に思いたくはない。
でも、少しだけ息苦しくなった。

「ねえ、咲良?」

「ん?」

「番組、ちゃんと観た?」

「……うん。しっかり見届けたよ」

「そっか。じゃあ、これ」

レオンは咲良の手元に、ふたつのマグカップをそっと置いた。
温かい湯気が立ちのぼり、甘い香りがふわっと鼻先をくすぐる。

咲良は一口だけ飲んで、微笑んだ。

「ありがと」

ふたりの間に、流れるような空気が戻る。

けれど──
咲良の胸の中には、小さな波紋が、まだ静かに広がっていた。
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