天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
朝の代官山は、まだ人通りもまばらだった。
アトリエの窓から差し込む柔らかな光のなか、
レオンはキャンバスに向かっていた。
絵筆を握る手は、何度も止まり、何度もやり直された。
(咲良……)
彼女は今、隣の部屋にはいない。
けれど、レオンの中には確かに「いる」。
「僕は、もう二度と君から離れない。
でも、今は……触れずに、ただ見つめることしかできない」
そう心に言い聞かせ、筆を進めた。
*
その頃、咲良は道場の裏手にある公園の周回路を走っていた。
地面を蹴る足。
呼吸のリズム。
額を流れる汗。
風の感触。
考えごとをする余裕がないほど、自分を追い込んでいた。
(走ってるあいだだけは、何も考えなくて済むから)
咲良は、自分の弱さを知っている。
だからこそ、体を鍛えることで、心の揺れをごまかしていた。
──そのときだった。
「おーい、咲良」
前方から声が飛んできた。
振り向くと、榊原隼人が立っていた。
ジャージ姿の彼は、いつも通りぶっきらぼうで、でも目元はやさしかった。
「頑張ってるな。朝から飛ばしすぎじゃないか?」
咲良は息を整えながら笑う。
「うん、まあ……いろいろあるから」
「そうか。……顔つき、変わったな」
「え?」
「前より、ちょっと強くなったってこと」
「……それ、褒めてる?」
「当然だろ」
榊原は短く笑って、肩を叩いて去っていった。
咲良は、彼の背中を見送りながら、汗でにじんだ視界を瞬かせた。
*
──そして、少し離れた場所。
通りの影から、その光景を見つめるひとりの姿があった。
レオンだった。
彼は声をかけることもせず、ただ黙ってそこに立っていた。
咲良の笑顔。
風に揺れる髪。
軽やかに交わされた言葉。
(……これでいい。いまは)
けれど、胸の奥で、確かに何かがざわついた。
ふたりの間には、まだ、ひとつだけ届いていない言葉がある。
それを伝えなければ、もう前へは進めない。
そう、レオンは静かに決意した。
アトリエの窓から差し込む柔らかな光のなか、
レオンはキャンバスに向かっていた。
絵筆を握る手は、何度も止まり、何度もやり直された。
(咲良……)
彼女は今、隣の部屋にはいない。
けれど、レオンの中には確かに「いる」。
「僕は、もう二度と君から離れない。
でも、今は……触れずに、ただ見つめることしかできない」
そう心に言い聞かせ、筆を進めた。
*
その頃、咲良は道場の裏手にある公園の周回路を走っていた。
地面を蹴る足。
呼吸のリズム。
額を流れる汗。
風の感触。
考えごとをする余裕がないほど、自分を追い込んでいた。
(走ってるあいだだけは、何も考えなくて済むから)
咲良は、自分の弱さを知っている。
だからこそ、体を鍛えることで、心の揺れをごまかしていた。
──そのときだった。
「おーい、咲良」
前方から声が飛んできた。
振り向くと、榊原隼人が立っていた。
ジャージ姿の彼は、いつも通りぶっきらぼうで、でも目元はやさしかった。
「頑張ってるな。朝から飛ばしすぎじゃないか?」
咲良は息を整えながら笑う。
「うん、まあ……いろいろあるから」
「そうか。……顔つき、変わったな」
「え?」
「前より、ちょっと強くなったってこと」
「……それ、褒めてる?」
「当然だろ」
榊原は短く笑って、肩を叩いて去っていった。
咲良は、彼の背中を見送りながら、汗でにじんだ視界を瞬かせた。
*
──そして、少し離れた場所。
通りの影から、その光景を見つめるひとりの姿があった。
レオンだった。
彼は声をかけることもせず、ただ黙ってそこに立っていた。
咲良の笑顔。
風に揺れる髪。
軽やかに交わされた言葉。
(……これでいい。いまは)
けれど、胸の奥で、確かに何かがざわついた。
ふたりの間には、まだ、ひとつだけ届いていない言葉がある。
それを伝えなければ、もう前へは進めない。
そう、レオンは静かに決意した。