天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
風が冷たい夜だった。

代官山の公園には、街灯の光が静かに降りていた。
芝生の端にあるベンチ。そこに、レオンは立っていた。

スマホに保存した地図の点。
それを信じて、咲良はそこへ向かって歩いていた。

(本当に、ここにいるんだろうか)

でも──そこに、彼はいた。

少し痩せたような気がした。
でも、金色の髪は風に柔らかく舞い、
背中は、どこまでも変わらずまっすぐだった。

レオンがこちらに気づいて、ゆっくりと振り返った。

ふたりの視線が重なる。

しばしの沈黙。

それを破ったのは、レオンの低く、震える声だった。

「咲良……僕は、君を愛してる」

咲良は一歩、近づいた。

「それは、もう……聞いたよ」

「でも足りない。もっと言わせて」

レオンの声が、夜気のなかに滲んだ。

「たとえ君が、他の誰かを愛していたとしても。
 たとえ、もう僕を見ていなくても──
 それでも、僕は君を愛してる」

咲良の目が、驚きで揺れた。

「……なんで、そんなこと言うの」

「君が……他の男と話してるのを見た。笑ってた」

咲良は、はっと目を見開いた。

「隼人のこと?」

「うん。僕はただ、遠くから見てただけ。でも……胸が締めつけられて、呼吸ができなくなった」

レオンは、ゆっくりと顔を伏せた。

「でも、それでもいい。君が幸せなら、それでいい。
 僕はもう、奪うことはしたくない。愛してるから」

その瞬間、咲良は駆け寄って、レオンの胸を叩いた。

「……バカ!」

レオンが顔を上げたとき、咲良の目には涙がにじんでいた。

「わたしが愛してるのは、レオンだけだよ!
 他の誰かを好きになんて、なるわけない!」

「でも……」

「やきもち焼いてくれるのはうれしいけど、勝手にあきらめないでよ!」

咲良はそのまま、レオンの胸に飛び込んだ。

レオンの腕が、咲良をしっかりと抱きとめた。

「……ごめん。疑ったわけじゃない。信じてた。でも、怖かった。君の手が、また遠くへ行くんじゃないかって」

「わたしも怖かったよ。こんな感情、初めてだったから。だから──だから……」

「うん」

「もう、離れたくない」

「僕もだよ。絶対に、もう離さない」

ふたりの影がひとつに重なった。
そのまま、何度も、何度もキスを交わした。

言葉よりも、ぬくもりで想いを伝えるように。
確かめるように。
愛することを、もう迷わないように。
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