天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
──数時間後。

夜も更け、静まり返ったリビングに戻った咲良は、ソファーに横たわるレオンの姿に気づいた。

スケッチブックを抱えたまま、うとうとと眠っている。 目の下にうっすらと隈が浮かんでいた。

「……おつかれさま、レオン」

囁くように言って、毛布をかけようとしたときだった。

ふと、視線の先にあるイーゼルに、目が吸い寄せられた。

(……あれは)

キャンバスの上に描かれていたのは、咲良自身だった。

白の道着に身を包み、きりりと髪を結い上げた横顔。
柔らかな光が頬を照らし、背景には淡い桜の花びらが、風に乗って舞っていた。

凛としていて、でもどこかやさしくて。

そこにいるのは、自分なのに──知らない誰かのように、美しかった。

(……こんなふうに、見られていたんだ)

胸の奥に、ぽたりと熱い雫が落ちた気がした。

(私は……ちゃんと、大事にされてる)

そう思った瞬間、咲良の喉が、つんと熱くなった。

涙が滲みそうになるのをぐっと堪えながら、そっとソファの方へ歩み寄る。

そして、静かにレオンのもとへ膝をつき、彼の髪に指先を伸ばした。

「……レオン、ありがとう」

レオンの静かな寝息は、ゆっくりとしたリズムで咲良の鼓動と重なっていく。

あたたかな髪の感触の向こうに、確かなぬくもりがあった。

(私は、あなたのそばにいたい。最後まで)

そう心の中でそっと告げながら、咲良はそっと目を閉じた。

その胸には、春の陽だまりのような静かな光が、ひとひら、灯っていた。
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