天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
個展の会場が、ゆっくりと静けさを取り戻していく。
取材陣は去り、観客の姿もまばらになった夜の美術館には、絵画と照明だけが残されていた。

「……咲良」

呼ばれて振り向くと、レオンが彼女の手を引いた。
広い展示室の奥、ひときわ大きなキャンバスの前に立つ。

そこに描かれていたのは──虹だった。

あの日、ふたりで見上げた、雨上がりの路地に描かれたストリートアート。
その絵を、レオンはキャンバスに再現していた。

「これ……」

咲良が言葉を失うと、レオンは微笑んだ。

「ふたりのはじまりの場所。どうしても描いておきたかったんだ。今度は、永遠に残る形で」

虹のアーチの下には、小さな人物がふたり──
寄り添うように描かれていた。

ひとりは、ジャケットのフードを被った青年。
もうひとりは、きりっと背筋を伸ばした女性。

咲良は胸の奥がじんとあたたかくなるのを感じた。

「……ありがとう、レオン。こんなに、私のこと……」

「違うよ。こちらこそ」

レオンはそっと咲良の肩を抱いた。

「咲良。君がいたから、僕は自分を描けるようになった。
もう覆面なんていらない。君といる自分が、一番好きだから」

彼の手が、やさしく咲良の頬を包む。
目を閉じた咲良の唇に、レオンはそっとキスを落とした。

(あたたかい……)

ふたりだけの美術館。
展示された光の数々が、祝福するようにふたりを照らす。

キスは、やがて深く、重ねられていった。

ふたりの影が、虹の絵の前に寄り添って揺れる。

咲良の背にまわされたレオンの腕は、あの日よりもずっと力強くて、
咲良も、ためらいなくそれを受け入れていた。

「レオン……」

「ん?」

「私……あなたと出会えて、ほんとうによかった」

レオンは瞳を細める。

「僕もだよ。咲良。
……また、モデルになってほしい」

咲良は目を見開いて、すぐに小さく笑った。

「それなら……もっと鍛えなきゃ」

「え?」

「モデルなら、何度でもやるよ」
咲良はそう言って、照れくさそうに笑った。

レオンは、もう一度強く彼女を抱きしめた。

「約束だよ。咲良。
これからも、ずっと、君を描いていく」

キャンバスのなかの虹は、まるで未来を祝福するように輝いていた。
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