天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約

第2話 甘い夜、はじめての人

「もう、慣れてきたね」

キャンバスの向こうから、レオンの声がする。

「……そう?」

「うん。今日の君、リラックスしてる。線がやわらかい」

咲良は窓辺に立ったまま、なんとなく目を伏せた。
スイートルームの静かな夜。
見慣れてきたはずの夜景も、なぜか今夜は少しやさしく見える。

──ヌードモデル生活、5日目。

最初はただの「お詫び」だった。
けれど、描かれる時間は、想像していたよりずっと穏やかで。
レオンの視線は、どこまでも丁寧で、ただまっすぐだった。

「今日は、何色使うの?」

「薄い藤色。君の肩のラインに似合うと思って」

「また、そういうこと言う」 

咲良はふん、と鼻を鳴らす。

「ほんとうのことだよ。君を見てると、自然に色が決まる。アニメの女の子よりも、ずっと美しい」

「……もしかして、レオンってアニメ好き?」

「うん。日本語を覚えた理由」

レオンの指が右手だけでスプレー缶を操作し、
やわらかなラインを走らせていく。

咲良は、それをじっと見ていた。

(あんなに真剣な顔、初めて見たかも)

モデルとして見つめられているのに、変な居心地の悪さがない。
むしろ、まるで、自分がちゃんと存在してるって認められているような、そんな感覚。

「君を描く時間が、いちばん静かで幸せだよ」

ぽつりと、レオンがつぶやいた。

咲良の胸の奥で、きゅうっと何かが鳴った。

(……やっぱり、ずるい)

その声も、視線も、
どこまでもやさしくて、心が溶けていきそうだった。
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