【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
「はい、まずはお味噌汁から。火傷しないでね、お姫様」

大雅が差し出した湯気の立つお椀を、雪乃は少し照れたように受け取った。

「ありがとう……ふふ、お姫様はスプーンじゃなくてお箸でがんばります」

そう言ってお椀を両手で持ち、ひと口。
出汁のやわらかい風味が、じんわりと舌に広がる。

「あ……なんか、やさしい味……」

その瞬間だった。
ほっとしたようにまぶたを閉じた雪乃の目尻から、するりと涙がひと筋こぼれ落ちる。

「あれ……なんで……?」

自分でも気づかぬうちに、ぽろぽろと涙が落ちていた。
せっかく化粧を落としたあとだったのに、目の周りがまた赤くなっていく。

「緊張、してたんだろ。ずっと、身体も心も……ちゃんと耐えた証拠だよ」

大雅の声は、やさしいというよりも、もう甘かった。
お椀をそっとテーブルに置くと、彼は隣に椅子を引いて座り、雪乃の肩に腕を回す。

「えーん……泣いちゃうのずるい……私、がんばったもん……うえぇ……」

「うん、すっごく頑張った。えらい。世界一がんばった。よしよし、お姫様はよく耐えました」

「……こどもみたいに言わないでよ……でも……もっと言って……」

「はいはい。うちの姫は強くてやさしくて泣き虫で、でもちゃんとご飯食べるえらい子です」

「……泣いてても食べるから……」

そう言いながら、雪乃は鼻をすすりつつ、白米を一口ぱくり。

「……しょっぱい。涙のせいで、ご飯しょっぱい……」

「それは塩むすびの原理だな。新発見」

「やかましいわ……」

苦笑いしながら、でもまた、涙が落ちてきた。
止めようとすればするほど、どこか奥にしまってた感情まであふれてしまう。

けれど――

「……ねえ大雅」

「ん?」

「ここに帰ってきてよかった。ほんとに……ありがとう」

大雅は黙って頷き、雪乃の手を握った。

「これからは、泣いてもしょっぱいご飯でも、ちゃんと一緒に食べよう」

「……うん」

ふたりの食卓は、涙と笑いと、あたたかな湯気に包まれていた。
まるで、心の奥に沁みるごちそうのように。
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