【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
最後の一音を歌い終えた頃、雪乃の呼吸はすっかり深くなっていた。
ふわ、と優しい寝息。
胸元で小さく上下する体は、完全に力を抜いて俺に預けられている。
……やっと、眠ったな。
腕の中のぬくもりに意識を向けながら、俺はそっとまぶたを閉じた。
──あの日も、こうして抱きしめられたらよかったのに。
頭に浮かんだのは、病院の手術待合室。
雪乃が心室中隔欠損症の手術を受けた、あの長い一日だった。
「術中、心拍が一時的に不安定になって……」
執刀医の杉村が口にしたその言葉に、心臓を握られたような感覚がした。
医者である自分は、頭ではわかっている。
術前カンファでも、想定内のリスクとして共有されていた。
でも、わかっているはずなのに、体が言うことをきかなかった。
背中に滲む汗。乾かない喉。
握りしめた手が、じっとりと湿っていた。
「大丈夫、大丈夫……絶対、戻ってくる」
口に出してみても、不安は消えなかった。
彼女をベッドに送り出したあの瞬間の、手のひらの軽さ。
無力だったあの時の自分を、きっと一生忘れない。
──怖かった。
もしあのまま、雪乃が目を開けなかったらと思うと……
どうしようもなく、怖かった。
「おかえり」と言えたとき。
意識が戻った雪乃が、眠たそうな目でこちらを見て、かすかに笑ったとき。
あの瞬間の感情は、言葉にならなかった。
涙も出なかった。ただ、ただ、命が戻ってきたことに、全身が震えた。
今、こうして彼女が腕の中で眠っていることが、どれだけ奇跡か。
静かな寝息に耳を澄ますたび、命の鼓動を確かめるたび、その奇跡を思い知る。
「……生きててくれて、ありがとう」
声にならない言葉を、髪にそっと落とすように囁いた。
あの日、自分の手では救えなかった命を、
これからは、毎日、毎晩、ちゃんと守っていく。
医者としてじゃなく、男として――雪乃の隣で。
そっと額にキスを落とす。
その瞬間、彼女の唇が微かに緩んだように見えた。
夢の中でも、きっと笑っている。
そう思ったら、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
夜はまだ静かに続いていく。
この温もりがある限り、大雅は何度でも明日を迎えられる気がした。
ふわ、と優しい寝息。
胸元で小さく上下する体は、完全に力を抜いて俺に預けられている。
……やっと、眠ったな。
腕の中のぬくもりに意識を向けながら、俺はそっとまぶたを閉じた。
──あの日も、こうして抱きしめられたらよかったのに。
頭に浮かんだのは、病院の手術待合室。
雪乃が心室中隔欠損症の手術を受けた、あの長い一日だった。
「術中、心拍が一時的に不安定になって……」
執刀医の杉村が口にしたその言葉に、心臓を握られたような感覚がした。
医者である自分は、頭ではわかっている。
術前カンファでも、想定内のリスクとして共有されていた。
でも、わかっているはずなのに、体が言うことをきかなかった。
背中に滲む汗。乾かない喉。
握りしめた手が、じっとりと湿っていた。
「大丈夫、大丈夫……絶対、戻ってくる」
口に出してみても、不安は消えなかった。
彼女をベッドに送り出したあの瞬間の、手のひらの軽さ。
無力だったあの時の自分を、きっと一生忘れない。
──怖かった。
もしあのまま、雪乃が目を開けなかったらと思うと……
どうしようもなく、怖かった。
「おかえり」と言えたとき。
意識が戻った雪乃が、眠たそうな目でこちらを見て、かすかに笑ったとき。
あの瞬間の感情は、言葉にならなかった。
涙も出なかった。ただ、ただ、命が戻ってきたことに、全身が震えた。
今、こうして彼女が腕の中で眠っていることが、どれだけ奇跡か。
静かな寝息に耳を澄ますたび、命の鼓動を確かめるたび、その奇跡を思い知る。
「……生きててくれて、ありがとう」
声にならない言葉を、髪にそっと落とすように囁いた。
あの日、自分の手では救えなかった命を、
これからは、毎日、毎晩、ちゃんと守っていく。
医者としてじゃなく、男として――雪乃の隣で。
そっと額にキスを落とす。
その瞬間、彼女の唇が微かに緩んだように見えた。
夢の中でも、きっと笑っている。
そう思ったら、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
夜はまだ静かに続いていく。
この温もりがある限り、大雅は何度でも明日を迎えられる気がした。