【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
面接は、不動産会社「ことり不動産」の小さな応接スペースで行われていた。
向かいに座るのは、背筋をピンと伸ばして、和やかに微笑む――この会社を経営している菊野健一。

穏やかな雰囲気の男性で、雪乃がいつもバイトしているお弁当屋「きくの」の、さえ子さんと孝太郎さんの息子だった。

「……母から聞いてたけど、本当に来てくれてありがとう。正直なところ、今ちょっとバタバタしててね。事務スタッフが一人急に辞めちゃって、人手が足りなくて」

「いえ、こちらこそお声がけいただいて。ありがとうございます」

雪乃は少し緊張しながらも、落ち着いた声で応えた。
あらかじめ、さえ子さんが雪乃のことを健一に話してくれていたようで、話はとてもスムーズに進んでいる。

「事務っていっても、難しい仕事ばかりじゃないよ。電話対応、来客の案内、簡単なデータ入力……。パソコン操作も問題ないって聞いてるし、週5のフルタイム、大丈夫そう?」

「はい。以前より体調も安定していますし、主治医にも相談して、無理のない範囲でならと」

「そっか。それなら安心だ。体調のこと、ちゃんと教えてくれてありがとう。無理だけは絶対しないでね」

健一の声には、どこか親しみと配慮がにじんでいた。きっと、両親譲りのあたたかさなのだろう。

「母さんたち、うちでも雪乃さんの話してたよ。“あの子は真面目で気が利く子だ”ってね。うちも助けてもらえたら、心強いよ」

「……そんなふうに言ってもらえて、すごくうれしいです」

少しだけ緊張がほどけて、雪乃の頬がふんわりと緩んだ。

「じゃあ、正式にお願いしようかな。もしタイミング合えば、来週からでも」

「はい。よろしくお願いします」

春の光が差し込む窓辺。
新しい場所での一歩が、また静かに始まっていく。
雪乃の心には、不安よりも、希望のほうが大きく広がっていた。
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