【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
帰宅してシャワーを浴びたあとは、いつもよりのんびりした気持ちでソファに身を預ける。

「……つかれたぁ」

クッションを抱えながら、ソファにゴロリと横になる雪乃。その声には、どこか満足げな響きが混じっていた。

そのとき、キッチンから冷蔵庫を開ける音がして、大雅が麦茶のグラスを手に現れた。

「お疲れ。今日、だいぶがんばってたね。顔、真剣だった」

「え、見てたの?」
雪乃が驚いたように顔を上げると、大雅はちょっと得意げに頷く。

「見てたよ。というか……ちょっと笑いそうになった」

「なんで!?」

「“今日だけは許して”って顔で、自転車こいでたから」

「ちょっとー! こっちは真剣だったんだから、笑わないでよ!」

「笑ってないって。でも、かわいかった」

「……うそくさ」

雪乃がじと目で睨むと、大雅はくすっと笑って、そっと麦茶を差し出した。

「水分補給。がんばったごほうび」

「……ありがと」

一口飲んでから、雪乃はふうっと息を吐いた。

「ねぇ、私……前より少しはマシになったかな。ちゃんと前に進めてる?」

大雅は少し黙ってから、まっすぐに彼女を見て答える。

「うん。すごく、がんばってる。俺が保証する」

その言葉に、雪乃の胸の奥がじんわりと熱くなる。

「……そっか。じゃあ……もうちょっとだけ、がんばってみようかな」

「うん。それでこそ、俺の彼女」

「ふふ……なにそれ。自分で言う?」

「言うよ。堂々と」

ソファの隣に腰を下ろした大雅が、そっと雪乃の髪をなでる。
手のひらから伝わるぬくもりに、雪乃の身体が自然とゆるんでいく。

「ねえ……もうちょっと、ここにいて」

「もちろん。今日くらい、なにがあっても横離れない」

「……それ、ちょっと怖いかも」

「ん? どういう意味?」

「だって、寝返りうったら腕が邪魔とか言いそうだもん。現実的な医者だし」

「……いや、それは言うかも」

ふたりで顔を見合わせて、くすっと笑い合った。

どこにでもある夜。
でもその笑い声は、どんな薬よりも心を癒してくれる。

胸の奥に灯った小さな希望。
それを支える誰かがいてくれるだけで、人はこんなにも強くなれるのかもしれない――

雪乃はもう一度グラスを口に運び、ほんの少し、笑みを浮かべた。
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