氷壁エリートの夜の顔
「前に教えてもらって家で作ったら、バターを入れすぎて、なんか……海外で出てくる日本風料理みたいになっちゃった」

 祐介くんは、急に武士のような真顔を作って頷く。

「わかりました。咲さんの屍、しっかり越えさせてもらいます。キリッ」

 その瞬間、カウンターのあちこちから笑いが湧いた。

「なんだい祐介くん、キリッて……戦国武将のつもりかい」
「俺も、咲殿の無念、晴らさせていただきます。その煮物と、ビールもう一杯!」
「え、うちの煮物、いつもバター一箱入れてるけど? 普通に旨いよ」

 常連同士の間で冗談が飛び交い、私も思わず笑ってしまった。
──やっぱり、古美多のこの雰囲気が、私は大好きだ。



「はい、咲ちゃん。今日の煮物、ちょっと余ったの。よかったら持って帰って」

 店じまい後の静けさの中、京花さんが、タッパーを包んだ風呂敷を差し出す。私は両手で受け取りながら、深々と頭を下げた。

「いつも、本当にありがとうございます」

「いいのよ、余りものだし。いつも咲ちゃんが笑顔で働いてくれるから、助かってるのはこっちよ」

 そう言ってから、京花さんは少しだけ表情を曇らせた。
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