氷壁エリートの夜の顔
 ふたりがグータッチして笑い合う光景に、私は思わず手を止めた。
──あの結城さんが、冗談を言って、笑ってる。

 冷たくて、無表情で、完璧で。社内にいるだけで、空気がピリッと張りつめるような人なのに──
 いま彼は、肩の力を抜いて、自然な笑顔を見せている。

 少しだけ見惚れてしまった自分に気づいて、私は慌てて視線を落とす。
 そして器を拭きながら、心の中で自分に言い聞かせた。
 いやいや、あの笑顔は、私に向けられたものじゃないし。職場では、氷壁エリートだし。

 それなのに──彼の笑顔を、もう少しだけ見ていたいと思ってしまう自分がいて、私は戸惑った。

 でも、私はちゃんとわかってる。
 その気持ちに、名前なんてつけちゃいけないってことを。
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