氷壁エリートの夜の顔
 彼は小さく咳払いをしながら、ビールを一口飲んだ。
 頬が少しだけ赤く染まる。完璧に整ったその顔が、ほんのわずかに柔らかく見えた。

「……スパイス柿ようかん、注文しなくていいの? 常連さんが来たらすぐ売り切れちゃうよ」

 私は少しだけ視線を外しながら、小さな声で言った。

「スパイスの柿ようかん? そんなのあるのか」

「……端っこがね、とくに美味しいの。今なら、まだあるけど……」

「くだらない」と言われるかと思った。
 でも、返ってきたのは予想外の言葉だった。

「じゃ……それも、お願い」

 そのとき、引き戸が開く音と共に、朗らかな声が響いた。

「颯真くんジャマイカ! 夜にいるなんて珍しい!」

 祐介くんだ。彼は手を振りながら結城さんの隣に座る。そして、信じられないことに、結城さんも笑って答えた。

「祐介くんこそ、昼も夜も来るんだね」

「あ、咲さん。柿ようかんキープお願い! 今日は端っこある?」

 祐介くんが言う。私は「ありますとも」と答えた。

「颯真くんもキープしてもらった? 端っこは先着2名さままでだから、もしまだだったら──」

「俺も注文した。柿ようかんの両端は、俺たちで確保だな」
< 23 / 206 >

この作品をシェア

pagetop