氷壁エリートの夜の顔
 オフィスに戻ってPCを開くと、結城さんからのメールが届いていた。
 さっき提出した資料に、もう目を通したらしい。

 相変わらず、句読点の打ち方一つにまで統率が取れてるような、隙のないビジネス文面。──でも、そこに体温はなかった。

『資料は全て確認しました』

 ……それだけ?

 昨日ようやく仕上げた初期提案書。細部の数字の整合性を詰め、グラフを何度も差し替えながら、地味に地味にデータを積み上げて、ようやく完成させた資料だった。

 もっと良くするための細かい修正依頼がくると思ってたし、ほんの一言だけでも「ありがとう」なんて言葉があったら……なんて、ちょっとでも期待した自分が悔しい。

 まるでこちらの熱量など、最初から存在しなかったかのようだ。

 古美多で見せた、あの柔らかい笑顔は──やっぱりあれ、私の見間違いだったのかも。

 もしくは、時空が歪んだのかもしれない。ほら、映画『インターステラー』でも、そんなことあったじゃない?
──そうやって冗談めかしてみても、心はちっとも浮上してくれない。

 私はモニターに映る、メールの送信者欄のイニシャルをぼんやり見つめながら、小さく、深く、ため息をついた。
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