氷壁エリートの夜の顔
 昨日、結城さんがラウンジを出たあと、私はすぐに京花さんへ電話をかけ、事情を説明した。
 少し驚きながらも、「料理を運ぶだけなら問題ないわ」と、京花さんはあっさり受け入れてくれた。

 その夜、私は深夜近くまで仕事に追われていた。

 ひと息つこうとコーヒーを淹れたとき、スマホの通知ランプが点滅していることに気づく。京花さんからのメッセージだった。
 そこには、結城さんが座敷だけでなくホールでの接客も手際よくこなし、さらには仕込みまで手伝ってくれたことが綴られていた。

 私はもう一度、頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました。……それと、今までごめんなさい」

「今まで?」

「その……ずっと、結城さんのこと、ちょっと……というか、だいぶ誤解してて……」

 笑って言ったつもりだった。

「心の中で……ペッパーくんとかSiriと比べて、『まだまだだな』なんて思ってました」

 彼は一瞬きょとんとしたあと、ふいに顔を伏せて黙り込む。

──まさか、怒らせた……?

 不安になって覗き込むと、彼の肩がかすかに震えていた。

 ……笑ってる?
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