氷壁エリートの夜の顔
* * *

 スーパーで、かぼちゃと特売のジャガイモ、ついでにグレープフルーツを買い込んだ。
 エコバッグに詰めて持ち上げると、ずしりとした重さ。細いナイロンの持ち手が、指に食い込んで地味に痛い。

──なんかのキャンペーンでもらったエコバッグ、そろそろ寿命かな。

 そう思った直後、バッグがふっと軽くなった。バツン、という音とともに、片方の持ち手が千切れ、グレープフルーツがコロコロと逃げていく。

「ちょ、そっちは坂……!」

 慌てて追いかけたその先で、誰かがしゃがみ込んで、グレープフルーツをキャッチしてくれた。

「ありがとうございます!」

 顔を上げながら礼を言う。逆光でよく見えなかったが、すぐに見覚えのある輪郭に気づいた。
 チャコールグレーのニットにベージュのチノパン。風に揺れる髪が、柔らかな表情を彩っていた。

「結城さん……」

 え、なんで……いや、そうか。古美多の近所に住んでいるなら、うちの近所でもあるということだ。

 私の思考が「ナウ・ローディング……」とぐるぐる回っているあいだに、結城さんはもう一つのグレープフルーツを拾い、私のバッグに入れようとして手を止めた。

「持ち手が切れちゃってますね」

 その口調は相変わらず冷静だったけど、ちょっとだけ口角が上がっていた。
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