氷壁エリートの夜の顔
「いないけど。俺にアーンしたがる女子はいっぱいいるから、平等にしてもらってるだけ」

 私は呆れて首を振った。

「あんたさ、中学まではモサっとしてて可愛かったのに……あのときの写真、結城さんに見せていい?」

「ちょ、それは勘弁して! 黒歴史すぎる!」

 笑いあっていると、ふと結城さんと視線が合った。

「お稲荷さん、味見してもいいですか?」

 その一言だけで、胸がふっと高鳴る。

 私は箸でそっとお稲荷さんを摘み、彼の口元へ差し出した。
 彼はためらいもなく半分齧り、「あ、美味しい」と小さく笑う。

 隣の律希が、たまらんといった顔でリビングを覗き込む。

「ゆづちゃん、希少映像! 姉ちゃんのアーン!」

「え、うそ⁉︎ 見たい!」

 柚月がキラキラした目でキッチンに駆け込んでくる。

 私は赤くなる顔を必死で抑えながら結城さんを見ると、彼は照れたように少し笑い、もう一度そっと口を開けた。

 「きゃーっ!」

 双子の歓声が弾けるなか、私は──耳まで真っ赤に染まりながら、残り半分のお稲荷さんを、そっと彼の口元に運んだ。
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