ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー

Ⅴ.眠らぬ匣

――目が、覚めた。

 

少女は、そこにいた。
星の心を取り戻し、すべてを終わらせたはずの、彼女だった。

だが、空は開いていなかった。
夜は明けていなかった。

その胸にあったはずの“星の心”は、すでに失われていた。

 

「……どうして……?」

呟いた声は震えていた。
けれど、答える声はなかった。

 

――否。

彼らは、答えなかっただけだ。

 

アリオトが笑っていた。
その手には、ルカの“自由”が砕かれ粉々の欠片が握られていた。

「君が空を見上げたとき、すごくきれいだったんだよ。
だから――あれは夢でいい。現実なんて、いらないでしょ?」

 

ドゥーベが微笑む。喉の裂け目はもうない。

「辛い想いをさせてごめんね。だからね、今度は忘れてほしいな」

彼の手が、ルカの額に触れる。
指先から、“思考”が抜けていく。

 

メラクの足音が響く。硬質で、不穏で、破壊的なリズム。

「逃げようとした時点で、もう駄目だったんだよ、ルカ。
ほかの誰かの世界にお前がいたなんて、ありえないだろ?」

 

ミザールが跪く。血に染まった手で、彼女の手を握る。

「言葉はいらない。僕に、君の意思なんて分からないほうがいい」
「だって、君が僕を否定するなんて――ありえないから」
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