ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー

喪失

「自由が欲しかった」

そう願っただけだった。
なのに、この空はあまりに狭い。

どこにも逃げられない。
走っても、走っても――同じ夜に戻ってくる。

星の光はあたたかくて、やさしくて、やさしすぎて、
だから痛い。息ができない。

やさしさに、窒息する。

私は私でいられなくなっていく。

名前も、夢も、記憶も、奪われて、
心の輪郭が、すこしずつ曖昧になっていく。

それでも私は、逃げようとした。
星のかけらを握りしめて。
でも、でも、でも――

「だって君がいなくなったら、僕たちが壊れるんだよ?」

砕かれたのは、心だった。

たしかに奪い返したはずのかけらが、
六つの掌で――また、砕かれた。

パリンッ。

光が、零れていく。
音が遠のく。
誰かが呼んでいる。
笑っている。

そうだ。
私は――星だった。
星だった私は、もう、どこにもいない。



ーーアルカイド
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