ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー


ミザールは跪いて、ルカの手を取った。

「貴女のために生きます。命を、存在を、すべて差し出しましょう」

彼はルカの行動をすべて記録した。何を食べ、何を言い、何に笑ったか。すべてをノートに綴り、聖典のように扱った。

「これで、もし貴女がいなくなっても……僕は、貴女を再現できる」

その瞳は純粋で、だからこそ恐ろしかった。



メグレズは、過去を語った。

「君は僕と結婚してたよね、前世で。ね、覚えてるでしょ?」
「君は僕のものだった。今も、これからも。さあ、君の手で僕の妄想じゃなく、現実にして、お願い」

彼は幸せそうに笑っていた。世界の全てが、彼とルカだけで完結する世界に見えた。

ルカが否定すれば、彼は壊れる。そんな予感がした。



フェクダは、ただ黙って見ていた。

距離を取り、ノートを開き、毎日彼女を記録した。

「……君が泣かないように、って思ってるんだ。本当だよ」
「君を泣かせる奴がいたら、……僕が全部、消してあげる」

その言葉は、ひどく静かで、恐ろしく優しかった。



 ――誰も彼女を憎んでいない。誰一人、彼女を嫌っていない。

けれど、その優しさがすべて。

狂気だった。
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