サルビアの育てかた
 うっすらと目を開けてみるが、私の視界はライクさんの身体で遮られていて外の様子が分からない。

 誰か、いるの? 助けて。助けてっ! 怖いの! 怖くてたまらないの! お願い、助けてっ‼

 悪魔が出てくるあの夢のときと同じように、私は心の中で必死に叫んだ。

「──やめろ」

 聞き覚えのある、それでいて今までにないほどの低い声が、窓の外から聞こえてきた。

「お前、何してんの?」

 その声は、この上ないほどの怒りを乗せて酷く震えていた。
 私に馬乗りになっていたライクさんは、慌てたように一度手を止める。声のした方を振り返ると、目を見開いて驚きの表情に変わった。
 身体が解放され、私はゆっくりと窓の外に視線を移してみる。

 すると、そこには──怒りに打ち震えた恐ろしい形相でこちらを睨みつける人が立っていた。いつも優しい表情を浮かべる「彼」とは掛け離れた様子で、全身から怒りを発しているのがビリビリと肌まで伝わってくる。

 ──嘘……どうして? どうしてよりによって、あなたなの……?

 一筋の希望が見えたと同時に、今のこんな状況を見られてしまったという恥ずかしさや苦しさ、悲しみが私の感情をかき乱す。

 だって……車の外にいたのは、ヒルスだったんだもの。
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