サルビアの育てかた
「ねえ、お父さん」
「うん?」
「お父さんは……もう一人の家族のこと、今でも覚えているよね?」
「えっ」

 唐突な質問に、父は目を見開いてこちらを振り向いた。

「さっきお母さんから聞いたの。お父さんたちには、もう一人娘がいたんだよね?」
「……」

 何かを思うように、父は一度新聞を閉じる。

「今でも忘れていないさ」

 とても真剣な眼差しを私に向けた。

「あの子のことは一生忘れない。何があっても。──だがな、その分『今』を大切にしていきたいんだ」
「え?」
「いつまでも過去の悲しみに囚われていたら前を向いていけない。今、父さんたちにはレイとヒルスがいる。だからとんでもなく幸せだぞ」

 それから父は再び新聞に目線を戻した。その後ろ姿を眺めながら、私は目を細める。

 お父さんの好きなサンドウィッチも用意してあげよう。
 卵をフライパンで調理しながら、私は小さく鼻歌を口ずさんだ。
< 158 / 847 >

この作品をシェア

pagetop