サルビアの育てかた
 駆け足で家のドアを開け、手を洗ってからキッチンに立つ。
 今日はお母さんの好きなスクランブルエッグを作ってあげよう。
 そう思いながら材料の用意を始める。

 するとそこに父が眠たそうにあくびをしながら起きてきた。

「お父さん、おはよう」
「おはよう。今日はレイが朝食を用意してくれるのか」
「うん。すぐに作るから待っててね」

 私の言葉に、父は口元を緩ませた。

 私って幸せ者だよね。こんなに良い人たちに迎え入れられて、普通の家族として暮らしていけるんだから。
 でも今ここに私がいられるのは、父と母の悲しい過去があるからだよね……。実の娘がもしも生きていたら、孤児の私がグリマルディ家に迎え入れられるきっかけはなかったと思う。きっと彼女の代わりなんだよね……。 
 とても複雑な想いに駆られる。これ以上考えたらいけない気がした。変な風に捉えてはダメ。

(たった今、お母さんが言ってくれたじゃない。『レイがいてくれるから、またちゃんと笑えるようになった』って……)

 たとえ血の繋がりがなくても、母がそう思っているのなら私は決して悲観したりしない。どこにでもいる「普通の娘」として振る舞っていかなきゃ。

 気持ちを切り替えて料理を進める。卵を割り、泡立て器でかき混ぜた。 

 まだ不安な気持ちが残っていた私は、短く息を吐いた。
 父の口からも直接話を聞いてみたい。椅子に腰かけて新聞を読んでいる父に思いきって声をかけた。

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