サルビアの育てかた
 私が食事を進める向かいで、ヒルスは手を止めた。

「レイ、今日はジャスティン先生と何を話したんだ?」

 口の周りを拭いてから、私も真顔になって彼と目線を合わせる。

「ヒルスも分かってるでしょ?」
「まあ、そうなんだけど」

 私は束の間、フッと笑みを溢す。先程のジャスティン先生との会話を思い出しながら話し始めた。

「先生ったら、もう一度ダンススクールに戻ってきてほしいって何回も私に言うんだよ」
「レイが辞めてから、先生もずっと悔やんでいたからな」
「……そっか」

 先生の気持ちを想像すると、やるせない気持ちになってしまう。

「私が辞めてから二年も経つのに、君には才能もあるし努力もできる子だって褒めてくれるんだよ。とっても嬉しかった。ダンスは今でも大好きだし、私だって続けたいって思っているの」

 正直にそう言うと、彼の表情はパッと明るくなった。

「本当かっ? レイ、それなら」
「うん。でもね……私、スクールに戻るつもりはないよ」
「……なんだって?」

 明るかった彼の表情が、一瞬にして曇ってしまう。

「どうしてだよ」
「そんな顔しないで。スクールには戻りたくないの」
「ダンスが好きなんだろ? もしかして、みんなに心配かけたからスクールに戻りづらいのか。誰も気にしていないし、クラスのメンバーもお前の復帰をずっと待ち望んでいるんだぞ」
「違う……それは関係ないの」
「だったらどうして」
「……」

 どう説明すればいいのか分からない。
 私だってまたスクールに通ってダンスを教わりたい。一人で踊るだけじゃ、新しい技もなかなか覚えられないし、何よりもステージに上がって踊る姿をたくさんの人に見てもらいたい。孤独のダンスは寂しいのが本音。だけど──  
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