サルビアの育てかた
「ねぇ、ひとつ訊いてもいい?」
「なんだ」
「ヒルスは、どうしてダンスを始めたの?」

 妹なのに、私はあなたのことをあまり知らない。以前よりはちょっとずつ話せるようになったから……どんなことでもいい。もっと色んな面を知りたい。

「聞きたいなぁ、ヒルスのこと。教えてくれない?」

 ヒルスは一瞬だけ戸惑った表情になる。でも小さく頷くと、頬を緩ませながら語り始めた。

「きっかけは、ジャスティン先生なんだ」

 それから私の目をじっと見つめるの。

「……あれはたしか、俺が六歳の頃か。テレビでジャスティン先生が踊っているのをたまたま見たんだよ」
「えっ、先生ってテレビに出たことがあるの?」
「世界大会で優勝したときにな。俺はそれまで、何に対してもあまり興味が湧かなかった。あの日、テレビの向こうでステージに立つ先生のダンスがあまりにもクールで、俺にとっては衝撃的だったんだ。今でも鮮明に覚えてる」
「だからヒルスは、先生のダンススクールに通い始めたの?」
「いや、大会で優勝したとき先生はまだ無名のアマチュアだったんだ。スクールもなかったし、ダンスは趣味でやっていたそうだ」
「えっ、趣味で? それで大会に優勝できたの?」

 私にとって未知の世界で想像つかないけど、世界大会でナンバーワンになるなんて相当な努力がないと叶わないというのは分かる。ジャスティン先生って、どれだけすごい人なの?

「ダンススクールを経営する前は普通に会社勤めをしていたらしい。優勝を機に有名になって、活躍の場が広げられたんだ。王室の前で踊ったこともあるんだぞ。弟子入りをするダンサーも現れて、数人だが取ることにもなったそうだ。その二年後だよ、ファンたちの要望に応えるために先生がダンススクールの経営を始めたのは。しかも、そのスクールが家の近くに建ったんだぞ? 俺は八歳のときに確信した。これは運命なんじゃないかって。だから父さんと母さんにスクールに通わせてほしいとお願いしたんだ」

 そこまでほぼ息継ぎなしに語り尽くすと、ヒルスは今までにないくらい愉快な顔をするの。
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