サルビアの育てかた
 びしょ濡れになった毛布と大きな絨毯を持って、私はシャワールームへ移動する。慣れた手つきで汚れた箇所にクエン酸をかけた。何度同じ作業をしたのか分からない。無心でいたはずなのに、なぜか目の前が滲んできてしまう。身体が小刻みに震え、声が勝手に漏れそうになる。必死に抑えた。感情が漏れないように。シャワーの音でかき消されるように。
 身体がちゃんと動いてくれない。気力がない。

 しばらく蹲っていると、シャワールームのドアが静かに開く音がした。私は咄嗟に目を擦り、もう一度毛布を洗うために両手を動かした。

「レイ」

 背後からヒルスの声がした。また目の前がぼやけてしまう。
 どうしよう、顔を見ることができない。

「平気か?」

 私の隣にしゃがみ、ヒルスは毛布に手を伸ばす。手伝おうとしてくれているようだ。
 目も合わせずに、私は小さく頷いた。

「うん、大丈夫……。あの。お父さんは?」
「着替え終わったらまたリビングの床で昼寝を始めたよ」

 彼は笑ってる。
 どうしてだろう。ヒルスは私みたいに全然悲しんだり落ち込んでいるような姿を見せない。辛いのは、同じはずなのに。
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