サルビアの育てかた
「レイ」
「……うん?」
「無理するなよ」

 そう囁くと、ヒルスはそっと私の肩を抱き寄せてくれた。
 ……いつもそう。彼のぬくもりを感じると、どんなに悲観していたとしても、心があたたまる。

「泣きたいときは我慢するな」
「……ありがとう。ヒルスも、辛いでしょ?」
「俺は平気だよ。父さんの介護はこれからも続けていく。それに、レイのことも支えるからな」
「……ヒルス」
「辛かったらいつでも言えよ。愚痴を吐き出すだけでもいい」

 そんな言葉を向けると、ヒルスはそっと私の肩を撫でてくれた。

 お湯の流れる音だけが響く無言のひととき。とても心地よくて、癒される空間へと変わっていく。
 ヒルスの魔法は、どんなときも私に元気を与えてくれる。不思議なくらい心が落ち着いて、胸の中が熱くなるの。

 ──もう少しだけ、このままでいたい。

 このわがままが伝わったのか分からないけれど、ヒルスは何も言わずに静かに頷いた。
 あたたかい腕に包まれる私の肩には、彼の優しさがいつまでも残り続ける。
< 272 / 847 >

この作品をシェア

pagetop