サルビアの育てかた
「お母さん。やっぱり私たち、今日は早く帰ろうかな」
「何言っているのよ。今日は介護士さんが一日いてくれるし、病院にも一緒に付いてきてくれるから心配しないで」
「でも夜は……」
「いいから遠慮しないの。たまにはリフレッシュしてきなさいと言ったでしょう?」

 母の優しさは嬉しかった。
 でも私とヒルスは目を合わせ、何も言わずにお互いに頷く。

「母さん、無理はするなよ」
「はいはい。言われなくても大丈夫よ。さあ、行ってらっしゃい!」

 笑顔で手を振る母を見つめ、私たちは「行ってきます」と小さく返事をする。
 私たちの乗る車がひとつ目の角を曲がるまで、母はずっとこちらに目を向けて見送っていた。

「ねぇ、ヒルス」
「ああ。分かってるよ」

 ヒルスと二人きりの時間はもちろん楽しみにしていた。けれど、今日は外食を済ませた後はすぐに帰った方がいいみたい。ヒルスも同じ考えなのは分かる。これ以上話すまでもなかった。

 東の国から顔を出す朝の光が今日は刺激が強すぎて、私は思わず目を細めた。
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