サルビアの育てかた
(ごめんなさい、ヒルス。私……)
(大丈夫だよ。レイ。落ち着いて。もう一度やれるか)
(うん……)

 目と目を合わせ、心だけで会話を交わす。
 大きく頷いてから、私は体勢を整えてもう一度マカコの位置につく。

 ヒルスは私の隣に立ち、ステップを小さく踏みながらじっとこちらを見つめていた。
 再び意識を集中させ、溢れるほどの力を込めて私は両脚を上げる。重力に逆らい、全身の筋肉を上手く使って脚を後ろへと下ろしていく。
 三回連続でマカコを決めたとき、ヒルスが私に向かって両手を広げた。
 それを見て、私は身体を魅せるように回転させ彼の胸の中にすっと飛び込んだ。私たちはお互いの瞳を見つめ合い、身体を抱き寄せる。身を寄せ合ったままのポーズで、やがて曲は終わりを告げた。

 この瞬間、男性ファンの雄叫びや女子たちの甲高い悲鳴が私とヒルスに浴びせられ、会場内は狂ったように湧いていた。
 思わぬところでトラブルを起こしてしまったが、最後は完全なるアドリブでどうにか乗り切れた。
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