サルビアの育てかた
「色々と教えてくれてありがとう。これからもっと頑張るね」
「口だけならなんとでも言えるのよ。あとひとつだけいい?」
「……なに?」

 メイリーはため息混じりで私の目の前に立つと、鎖骨下辺りを指差してきた。

「さっきあなたが着替えているときにチラッと見えちゃったんだけど。あなたの胸の上辺りに変なシミがあるわよね?」
「あ……うん。そう、だね」

 その言葉を聞いて、心臓がバクバクと音を立て始める。着ている服を思わず両手でギュッと握り締めた。

「ダンサーは表舞台に立つの。見た目もそれなりに気をつけなきゃいけないから、あなたのその変なシミは隠すようにして。胸元が見えるような露出はダメよ」

 厳しい口調で指摘してくる彼女のひとつひとつの言葉が、私の心の奥を突き刺してくるようだった。

 ……分かっている。私だって。

 私はこの大きなシミが嫌い。だから今までずっと、露出が多い服なんて着たこともないしこの先も着ない。
 鋭い目つきのメイリーに向かって、私は小さく返事をするしかなかった。

「そうだね……気をつける」

 メイリーは眉をしかめて背を向けた。なんだか後ろ姿さえも不機嫌そう。着替え終わると、無言で更衣室から出ていってしまった。
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