サルビアの育てかた
 目の前で起きている状況が全然認識できない。
 衝撃のあまり、私は手に持っていた白い箱を落としてしまう。グシャッとケーキが崩れる音が聞こえた気がした──

 消防士たちが懸命に消火活動をしているというのに、私たちの家は全く鎮火する気配がない。炎に包まれ、至るところが黒く焼け焦げていく。物凄い音を立てて今にも崩れそうになっていた。

「お父さん、お母さん……!」

 私は思わず震えた声で叫んだ。炎の燃える音と、野次馬が騒ぐ声と、消防士たちの慌ただしい叫び声で、私の悲鳴なんてかき消されてしまう。

 だけど。だけど、だけど……叫ばずにはいられないの。

 私はヒルスの手をバッと離し、燃え盛る炎に向かって走り出した。

「お父さん、お母さん!」

 何度も何度も父と母を呼び、無我夢中になって燃え盛る炎へと駆けていく。
 熱さなんて関係ない。もしも二人があの中にいたら。そう考えると、いてもたってもいられなくなった。

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