サルビアの育てかた
 不安を乗せたまま走る車は、やがて私たちの家のすぐ近くまで辿り着いた。次の角を曲がれば、帰るべき場所がある。
 なぜだろう。そこには多くの野次馬のような人々が集まっていて、更には消防車や救急車が何台も停まっていた。消防隊が何十人もいて、忙しなくあちこち動き回っている。

 どうしてみんな、私たちの家がある方を見て不安そうな顔をしているの? 何をそんなに慌てているの……?

 異様な光景を目の当たりにして、全身が硬直していく。
 ヒルスは震えながらゆっくりと車から降りていった。
 吐きそうなくらい動悸がした。私はケーキの箱を持って彼を追って外に出る。ヒルスの隣に並ぶと、その震える手をギュッと握り締めた。
 するとヒルスは、瞳の奥を怯えた色に染めながらも私の顔をじっと見つめて小さく頷くの。
 きっとこれは、ただのボヤ騒ぎか何かだよ。心配することなんてない。すぐそこの角を曲がって家が無事だというのを確認して、安心すればいいだけの話。
 そう言い聞かせてみるのに、身体は正直だった。全身から汗が流れ出てきて、どうしても止められない。
 ヒルスは私の冷たい右手を握り返してから、ゆっくりと歩みを進めた。

 大丈夫。大丈夫だから。何も、怖いことなんてないよ……。

 無表情と無言のまま野次馬たちの間をかき分け、私たちは息を乱しながら前へとゆっくり進んでいく。

 ──そして私たちは見てしまった。直視できないほど眩しく、真っ赤に燃え上がる炎を。夜空をもくもくと漂う不気味な黒い煙を。
 その発生源は他のどこからでもなく、私たちが帰るべき場所からだった。
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