サルビアの育てかた
 ──それでも、意識の奥底では絶えず父と母を呼び続けている。

 お父さん、お母さん。どこにいるの? どうして返事をしてくれないの? 美味しいケーキを買ってきたんだよ。いらないの? いらないなら、ヒルスと二人で食べちゃうからね。後で欲しいと言っても知らないよ……。

 周囲の音も目の前の悲惨な光景も何もかも分からない状態で、私は意識の底でそんなことを嘆いた。
 その中で、ふと遠くの方から声が聞こえてくるの。

『レイ、ごめんね』

 母の優しい声。私の中に、まるで直接語りかけてくるようだった。

『父さんたちは、もういかなければならない』

 父の低い声も聞こえてきた。その言葉はあまりにも受け入れ難いもので……私は心の中で大きく首を横に振った。

 お父さん、母さん。二人とも何を言っているの?

 無情にも、私の声は二人に届くことはない。
 柔らかい口調で、母はゆっくりと言葉を紡いでいく。

『これからはあの子と……リミィと共に、天からあなたたち二人を見守っていくわ。もう会えなくなっても、あなたたちの心の中でいつまでも生き続けるからね。どうかレイには強く生きてほしいわ』
『何があっても前を向いていくんだぞ。レイがいれば、ヒルスもきっと大丈夫だ。今まで父さんたちの娘として一緒に過ごしてくれて、本当に感謝しているぞ……』

 父と母の言葉を聞いて全身がカッと熱くなる。

 いや……いやだよ。私たちをおいて行かないで。お父さんとお母さんは、私にとって大切な家族なの! これからも四人で色んなことを乗り越えていくんでしょう? 違うの? こんな形で、大好きなお父さんとお母さんとお別れしなきゃいけないの……?
 ねえ、返事をしてよ。お父さん、お母さん。お願い。お願い……!

 私の中に響いていた父と母の声は、それっきり聞こえなくなってしまった。
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