サルビアの育てかた
「やだ」
「……レイ」
「やだよ、聞きたくない」

 この感情は何なんだろう。怒りなのか悲しみなのか。心が闇に支配されていく。
 ヒルスは手を伸ばし、私の頬に触れようとした。とっさに顔を背ける。

「お父さんとお母さんがいつ帰ってくるのかだけ、教えて」

 瞳の奥から涙が溢れた。目が腫れ、頬の皮膚も赤く荒れてしまいそうだ。

 私の様子を眺めながら、ヒルスは眉尻をこの上ないほどに下げた。声を震わせて続ける。

「父さんと母さんは、帰ってこないよ」
「……何言うの、ヒルス」
「永遠の眠りについたんだ。もう、二人が目覚めることはない」
「やめてくれる。意味分かんない!」

 叫ぶようにそう言い放った。
 どんなに私が耳を塞いでも無駄な抵抗だ。
 ヒルスは警察から聞いたことを、時折言葉を詰まらせながら話し始めた。
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