サルビアの育てかた


 どんなに現実逃避をしても、時間の流れは止まらない。 
 私とヒルスは、数日間彼のフラット(アパート)の部屋で引き籠もっていた。
 明日には父と母を引き取り、葬式もしなければならないとヒルスは言う。

 ……引き取る? 何を引き取るの? 葬式? 誰の葬式だろう? よく分からない。

 私はソファで横になり、何をするわけでもなくただぼんやりと天井を眺める。
 私のそばに近寄り、ヒルスは優しい声で口を開いた。

「レイ」

 呼びかけられても私は無表情のまま、彼の目を見ることもしない。
 何度目かも分からない同じ質問を投げかけた。

「ヒルス」
「うん?」
「お父さんとお母さん。まだ、帰ってこないの?」

 自分でも驚くほど抑揚のない声だった。
 私がそうやって訊くと、今までのヒルスは「まだだよ」なんて誤魔化すかのような返事をしてきた。だけど、今日は様子が違う。妙に真剣な表情になり、顔を覗き込んできた。

「レイ、落ち着いて聞いてくれるか」

 ヒルスの声のトーンがとても低い。
 胸がざわつく。ぬくっと起き上がり、私は激しく首を横に振った。
 今から何を話すつもり。
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