サルビアの育てかた
 あの夜私は過呼吸になり、失神してしまったそう。病院に運ばれてすぐに意識は取り戻した。
 けれど、大火事の光景が脳裏に焼きついて。あれは夢なんだって、現実から目を逸らしたくなる。

「……ねえ、ヒルス。嘘だって言ってよ」
「ごめん、レイ。もう、誤魔化したり嘘をついたりできない。全部本当の話なんだよ」
「嘘。ウソ、だよ……!」

 取り乱しそうになる私のことを、彼はギュッと抱き締めてくれる。それなのに、ぬくもりも安らぎも感じられない。
 涙は枯れ、流れるものなんてもう何もないの。ただ、溢れる悲しみと絶望はいつまで経っても止められなかった。

「ねえ、ヒルス。お父さんとお母さんは、どこへ行っちゃったの?」
「……」
「答えて。答えてよ!」

 彼の腕の中で喚き散らした。まるで小さな女の子が大泣きするかのように、私の悲痛の叫びは止まらない。

 どれだけ幻の世界を求めても無駄だった。現実はここしかないの。ヒルスの真剣な顔を見ると、聞いた話が嘘なんだって否定したくてもできなくなってしまう。

 長い時間、彼は私を抱きしめてくれた。でも……心が癒やされることはなかった。気持ちはどんどん沈んでいき、胸の奥がいつまでも激しく痛んだまま。
 どれだけ悲しみにくれても、私たちの大切な人たちは二度と帰ってこない。

 頭がそう理解してしまったとき、私はショックのあまり「声」を失ってしまった──
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