サルビアの育てかた
 思い出すと、たちまち胸が締めつけられる。

「もう姉さんたちの……お前たち家族が過ごした家がなくなってしまったのは事実だ。だからこそ、あの場所で過ごした日々をお前には忘れてほしくなかったんだよ」

 俺たちが乗る車はいつの間にか高速の中を走っていた。遠出でもするつもりなのだろうか。
 ノンストップで過ぎ去っていく窓の外の景色を、ぼんやりと眺める。

「やっぱり、歳を取っても叔父さんは優しいままだな。俺、もう投げやりなことは言わないよ。あの日ほざいたことは本心でも何でもなかった」

 そう言って俺が叔父の方を見ると、なぜだかその顔に笑みが消えている。いや、むしろ少し怒っているような雰囲気が醸し出されていた。

「ヒルス」

 叔父の声が急に低くなる。威圧的なオーラを漂わせながらこんなことを言い始めるんだ。

「お前、オレを年寄り扱いしたか」
「えっ?」
「『歳をとっても優しい叔父さん』と言いやがったな? オレはまだまだ若いんだ!」
「いや、そういうつもりじゃなくて。最後に会ったのが十年も前だから……」
「この野郎、今運転中じゃなかったらお前のほっぺたつねってるところだったぞ!」
「はあ……はいはい。すみません。今の言葉は撤回するよ」

 笑顔は戻らなかったが、珍しく叔父が半分冗談を言っているのだと気づいた。
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