サルビアの育てかた
「俺に憧れてって……どういうことだ?」

 ロイは俺の問いに、何かを思うように小さく頷いた。それから微笑みながら俺とレイのそばに来ると、そっと耳打ちをしてきた。

「ヒルス先生は数年前、フレア先生と孤児院のイベントに参加されていましたよね? あの時のアクロバティックなダンスを見て、刺激をもらいました」

 その言葉を聞いたとき、俺は唖然とした。

 ──孤児院のイベント、だって?

 俺は、ロイの顔をまじまじと見つめる。黒の短い髪の毛と、優しい顔立ち。笑窪が浮かぶ柔らかい表情。
 この時、俺の脳裏に過去の映像が瞬時に流れていく。

 孤児院のイベントといったら、ひとつしか思い当たらない。
 あれは、二年前か。親なしの子どもたちを招待したイベントがあった。シスターと久しぶりに再会した場でもある。
 あのイベントで踊り終えた後、会場内を歩いていると、俺の存在に気づいた子たちが手を振ってくれたのは記憶に残っている。興奮したように数人が俺に声を掛けてくれたんだよな。
 楽しかった、とか、格好よかったとか。それに……

『また素晴らしいダンスを見せてください』

 そう声をかけてくれた子がいたよな。子供たちの中で一番背が高い男の子が、俺に向かって笑い掛けていたのを思い出す。
 あれは……そうだ。たしかにいた。清い表情を浮かべる少年が──ロイが。あどけない笑顔で俺を眺めて立っていた。
 あの時、俺に声をかけてくれていたのか。
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