サルビアの育てかた
 機嫌が悪そうなレイと話しづらくなってしまった俺は、逃げるように洗面所に向かって歯を磨き始める。

(滅多なことで怒らないレイが、どうしてあんなに冷たいんだろう)

 ぼんやりしながら俺が思考を巡らせていると、レイが俺の隣にやって来た。上着を羽織り、肩にバッグを下げて、今から外出する様子だった。

「私、これから出掛けるね」
「どこへ行くんだ?」
「友だちと、約束があるの」
「そうか。じゃあ夕飯は俺が用意しておくから、ゆっくり楽しんでこいよ」
「別に楽しむようなことじゃないんだけどね」
「うん?」
「ごはん作っておいたから食べてね。もうすぐランチタイムだし」

 レイに言われて俺はそこで初めて時計を確認した。既に十一時を回っている。……どれだけ眠っていたと言うんだ。

「ごめん、レイ。こんなに遅くまで寝てたなんて。それで、怒っているのか?」
「怒っているわけじゃないよ。今日はお休みなんだから、別に寝坊してもいいんじゃない」

 そう言ってくれるレイだが、やはり話しかたがいつもより冷たい気がした。

「行ってくるね」

 最後まで俺に笑みを向けてくれることもなく、レイは出掛けて行った。ゆっくりと玄関ドアが閉まると、俺は妙な寂しさを感じてしまう。
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