サルビアの育てかた
「ヒルス、元気になった?」
「あ、ああ。……元気になりすぎて大変だ」

 正直に俺がそう言うと、レイはくすりと笑うんだ。

「それなら良かった。ご飯食べよ。お腹空いたでしょう?」
「……そうだな」

 レイの両腕はゆっくりと俺から離れていってしまう。
 それなのに俺の両手だけは、彼女を放すことが出来ない。
 レイはそんな俺の両腕をギュッと握ってきた。

「ミートパイ、冷めちゃうよ?」
「分かってる」

 ──分かってはいるけれど。
 毎日大好きな人がそばにいて、これ以上のことは何も出来ないなんて。いつか発狂してしまうのではないかというほど、本気で我慢しているんだ。
 断固として、俺の両手は彼女を放そうとしない。

「レイ。もう少しだけ」
「えっ?」
「もう少しだけ、こうしていたい。何もしなくていいから……」

 とんでもなく甘えたような声を出してしまう。
 それでもレイはからかうこともせず、もう一度だけ俺の全てを包み込んでくれるんだ。

「いいよ。ちょっとだけね」

 彼女に抱き締められると、胸の中で愛しさが溢れ出てしまって止まらなくなる。

 何も心配することなんてない。レイはいつでも俺のそばにいて、こうしてたくさんのぬくもりをくれる。
 要らぬ嫉妬など俺たちには必要ないんだ。彼女との間には、他の誰にも触れることすら出来ない固い絆があるのだから。
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