サルビアの育てかた
 長身男に叫ばれるとレイは、今にも泣きそうなほど怯えた顔をしていた。誰がどう見ても、彼女が危ない状況にある。スーパーヒーローである俺は、ここで逃げるような真似は絶対にしてはならない。

 俺は拳で汗を握り締め、どうにか声を張り上げた。

「おいあんた! やめてくれないか」
「……あ? 何だてめえ」

 男にガン飛ばされると、俺の全身が微かに震え始める。それでも平静を装いながら、俺は静かに言った。

「……喧嘩をするつもりはないんだ」
「うるせぇ。今おれの機嫌はなぁ、究極に悪いんだ」

 どうやら相手は、やる気満々のよう。しかし俺は喧嘩なんかこれまでに一度もしたことがない。
 長身の男は俺よりも頭一つ分も大きくて、こちらに歩み寄ってくる度に迫力が増していった。
 まずい、ボコされる。

「ヒルス……!」

 男の背後で、レイが泣きそうな声で叫んだ。
 彼女の不安に満ちた声を聞いた瞬間、俺は顔つきを変える。

 いや、俺なんかボコボコにされたって別に構わない。とにかく、どうにかしてレイだけでもこの場から逃してやらなければ。
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