サルビアの育てかた
 俺はゴクリと固唾を飲み込むと、意を決した。目の前にある、あの路地裏へとゆっくり近づいていく。
 何もなければ、それでいい。あの女が言っていたことがただの勘違いであれば、他を当たって再びレイを捜し回ればいいだけなのだから。

 だけど俺はただ、現実から目を背けたいだけだった。

 呼吸が荒くなっていく中、俺が路地裏を確認してみると……
 その先にガタイの良い長身の男が、一人の華奢な少女に絡んでいるのが確認出来たんだ。

 男は興奮したように叫び声を上げ、拳をボキボキと鳴らしている。威勢が良すぎて、少し離れた場所から見ている俺でさえも怯んでしまうほど。

「この女! 生意気だな、黙って付いてこいって言ってんだろうが!」 

 罵声を浴びせられているその少女は、可愛らしく結われたいつものツインテールではなくなっていて、黒い長髪は乱れた状態で下ろされていた。

 ──たしかにそこにいたのは、大好きな彼女。レイだったんだ。
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