サルビアの育てかた
 もういい加減にしてほしい。どうしてこういう輩は、拳でしか会話が出来ないのだろう。俺はただ、早くレイと家に帰って一緒にハンバーグを食べたいだけなのに。
 お腹が空いていることを思い出した俺は、だんだんと機嫌が悪くなってきた。さっきから無駄に絶叫しまくっている男のことが煩わしくなり、イライラしてきた。
 この際、適当に隙を見てレイと一緒に逃げてしまえ。

 俺のこめかみが熱くなってきた時、長身男は懲りずにまたもや俺に飛びかかってきた。

 ああ、もう。鬱陶しいな!

 仕方がない、コークスクリューの技を出すことにしよう。
 思いっきり足を踏み込み、全身に力を込める。姿勢を整えてから飛び上がる時の勢いに任せ、右脚を思いっきり男の方に蹴り上げる! すると、俺のコークスクリューは見事に相手の顔面に命中したんだ。
 悶えながら長身男はその場に倒れ込む。

 よし、今のうちに逃げよう。そう思い、レイの方を見ると──

「ヒルス、危ない!」

 突然そう叫んだレイは、いきなりこっちに駆け寄ってきて俺の後ろの方を見ている。俺の真横でカポエラダンスの体制を取り、一回転してから力強く外蹴りをかます。アルマーダの技だった。
 何事かと思い背後を振り向くと──そこにはもう一人、別の男がいたようだ。しかしその男はレイの攻撃を受けて倒れ込んでいった。

「私もカポエラの足技できるの。甘く見ないで」
「こ、こいつら、何なんだよ……」

 怯えた顔をして、男たちは鼻血を垂らしてその場からダッシュで逃げていく。

「私、いつの間にか格闘家になったみたいだね」

 明るくそう呟くレイを見ると、俺は肩の力が抜け無性に嬉しくなった。
 レイは少し額に汗を滲ませて俺の顔を見上げる。

「ヒルスが教えてくれた蹴り技だよ。私のカポエラ、どうだった?」
「ああ。クールに決まってたぞ。本当にレイは、最高のダンサーだな」
< 521 / 847 >

この作品をシェア

pagetop