サルビアの育てかた


 いつもと同じ風景が、今日は一段とキラキラ輝いて見える。あいにくの天候であるが、濡れた足元さえも今の俺には心地よく感じた。

 ダンススタジオに到着し、すぐさま着替えを済ませ軽やかに練習場へ移動する。
 俺は無意識のうちに顔が綻んでいたようだ。練習場の鏡に映る自分を見て、俺は無表情を作ろうとしたがどうしても口角が上がってしまう。

「おはようヒルス」
「ああ、フレア。おはよう」

 いつものようにストレッチをしていると、フレアが隣に来て声を掛けに来た。
 いつまでもニヤニヤが止められない俺の顔をじっと見つめるフレアは「ふーん」と小さく声を漏らす。

「いいこと、あったみたいね?」
「まあな。分かりやすいだろ」
「とうとう自分で言うようになったのね」

 フッと小さく微笑むフレアの横顔は、どこか優しさで溢れている。

 本当は今すぐ大きな声でぶちまけたかった。「レイに想いを伝えられたんだぜ」と。
 だけどこれはデリケートな話だ。俺とレイは義理でも兄妹というのは変わらない。公に高らかに話すのは違う気がした。

 それを察してくれたのか分からないが、フレアは小さく「おめでとう」と言うだけで詳細を訊いてきたりはしない。
 今の俺は最高に浮かれているが、皆に堂々と俺たちのことを打ち明けるのはまだまだ先にしたいと思った。
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