サルビアの育てかた
 この女なら、レイに事実を暴露しかねない。もしレイが実の親に虐待の果てに捨てられたことを知ったら……また傷ついてしまう。

(レイが悲しむ顔はもう見たくない。一体どうすればいいんだ。このまま何もせずにいた方がいいのか。この女がレイにぶちまけてしまう前に、俺の口から伝えるべきなのか……?)

 どちらにしても、どんな形であっても。レイが過去を知ってしまったらと考えるだけで怖い。あの火傷の痕だって──
 あの笑顔を守りたいのに。どうしたらいいのか答えが見つからない。

「あはは。ヒルス、困った顔も可愛いねぇ」

 嫌味ったらしくそう言うメイリーに、俺は心底苛ついた。目の前に立つ悪女を睨みつけ、怒号に近い声を投げつける。

「お前、本当に性格悪いな。最悪だよ!」

 俺の言葉に、メイリーの眉に深い皺が寄る。頬を膨らませ、顔を真っ赤に染めた。

「最悪で悪かったね! そんなことあたしに言って、後悔しないでよ?」
「後悔なんてしねぇよ。胸くそ悪い。俺たちの前からさっさと失せろ!」

 勢いに任せて俺が怒鳴り散らすと、メイリーは背を向けた。

「言われなくても、二度と関わらないから! でも覚えておいた方がいいよ、ヒルス。女を怒らせると大変なことになるんだからね」

 息を荒げるメイリーは、捨て台詞を吐き捨てた後、駆け足でその場から立ち去って行った。

 ──他人にこんなにも怒り狂ってしまうのは久しぶりだ。
 ふと目線を見上げると、いつの間にか曇り空になっている。俺の心は悲鳴を上げていた。
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