サルビアの育てかた
 俯いていると、レイが突然俺の髪に手を置いて優しく撫でてくれる。彼女の行動に、俺の心臓は一気に鼓動を上げた。
 レイが優しく微笑んでいるのを見ると、もっと彼女に近づきたくなる。彼女の肩に自分の顔をそっと置く。

「私よりもヒルスの方が悩んでる。あんまり考えすぎないでね。私ね、過去にあったことは気にしないようにしているの。だから平気だよ」

 レイは俺の耳元で囁くようにたしかにそう言った。

 ──過去にあったことは気にしない?

 俺はこの言葉に敏感に反応した。
 癒やし続けてくれる彼女の柔らかい手を握り、そのまま膝の上に置くと、俺はゆっくりと口を開いた。

「……どんなに辛い過去だとしても、気にしないのか?」
「うん、出来るだけそうしてるよ。色々あったけど、メイリーさんにやられたこともそうだし。男の人に夜連れ回されたあの日だって。お父さんとお母さんのことも凄く悲しかったけど……私は今を楽しく生きていきたいの。辛い過去に囚われたくない。ヒルスがそばにいてくれるだけで、乗り越えられるんだよ。言ったでしょう?」

 微笑みながら語る彼女の表情は、とても美しい。

 何も言わずに俺はレイの頬に触れた。
 彼女を見つめれば見つめるほど、煌めく唇が俺の心を燃え上がらせる。吸い込まれるように、俺はそのまま彼女の唇にそっと愛を重ねた。
 俺も、レイと同じ想いだ。彼女がそばにいてくれるだけで元気になれる。先程までのどんよりとした背景が、今だけは明るく映るようになった。

 レイのこの笑顔を、どうしても守りたい。
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