サルビアの育てかた
 いや──
 俺は決めたんだ。今日はこれ以上、何も考えない。レイの誕生日だから、笑顔で過ごそう。 
 大切な時間を過ごした後に、俺は解決先を必ず見つけてみせる。

「レイが好きすぎて、ちょっと考え事をしていたよ」
「……えっ?」

 目を細めて俺を見つめ続けるレイが可愛くて仕方がない。

「今日の夜、オーシャンホテルのレストランでディナーをしよう」
「オーシャンホテルの? あのレストラン、凄く美味しくて有名だよね」
「レイの誕生日だから、予約したんだ。こういう日にしか行けないだろう?」

 俺が優しく言うと、レイはこの上ない満面の笑みを浮かべた。

「……ヒルスってそういうところしっかりしてるよね」
「そうか?」
「びっくりしちゃった。ちゃんとした所でディナーだなんて。ふふ。そっかぁ。ヒルス、そうなんだあ。格好いいね」

 嬉しそうにニコニコ笑うレイを前にして、俺はなんだか急に小恥ずかしい気分になる。

 すっかり機嫌がよくなったレイは、俺の背中に腕を回して抱きついてきた。背伸びをして瞳を閉じ、俺のことをじっと待っているようだ。

(レイのこういうところが最高に可愛いんだよな……)

 俺はそんなレイを眺めながらフッと微笑む。待ってくれる彼女の愛しい唇に、再びキスを重ねた。

 周りなんてどうでもいい。俺があれこれ考えていても、答えなんてすぐに見つからないんだ。
 今、目の前にいる彼女を疎かにして、楽しいはずの一日が暗いものになってしまうなんて本末転倒だ。
 だったら今日だけは、彼女だけを考えていたい。レイとの尊いこの時間を、ゆっくり過ごしたいんだ。
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