サルビアの育てかた
 こうしている瞬間も、撮られて晒されるのだろうか。
 どちらにしたって、ダンススクールやスタジオ仲間全員にも俺たちの関係はいずれ知れ渡る。

 何よりも一番気がかりなのは、レイの辛い過去のことだ。
 俺たちの事情をマスコミに売ったであろうあの女には、とてつもない憎悪と嫌悪感が込み上げている。すぐにでも怒鳴りこみに行きたかったが、ああいうタイプは関われば関わるほど何を仕出かすか分からないので厄介だ。
 俺が下手に行動に出せばそれすらもネタにされかねない。
『モラレスのバックダンサー、か弱い女性を怒鳴り散らし脅す』なんて好き勝手に書かれてしまえば、モラレスにも迷惑になる。ここはグッと堪えるんだ

「……ヒルス」
「あっ。何?」
「また、怖い顔してる」
「ごめん」
「何かあったの?」

 俺はどうしても口を開くことが出来ない。だって、言えるわけないだろ?

『レイは生みの親に虐待されていたんだよ』

 こんな台詞、俺は死んでも口にすることなど出来ない。
 レイを傷つけてしまうに決まっている。だけどこのまま放っておいても、いつか彼女本人に知られてしまう。
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