サルビアの育てかた
 ──俺が事の経緯を話すと、シスターは下を俯き小さく息を吐く。

「そうですか……わたしたちが話していたところを他の方に聞かれていたのですね。こんな事態になったのは、わたしの責任でもあります」
「いえ、そうではありません。悪いのはマスコミに売った奴なんですから。それよりも、このままレイの耳に過去のことが知れ渡るような事態になったら、間違いなく傷つくと思います。それだけはどうしても避けたくて。だけど、俺一人ではどうしても解決策が見つけられないんです」
「それで、わたしのところまで相談に来てくれたのですね」
「はい」

 すがる思いだった。シスターならきっと何かいい方法を見つけられると、根拠のない期待を寄せていた。
 しばらく考え込むように口を閉じたまま、シスターは俯き続けている。
 しばしの沈黙の後、俺の顔を見て首を小さく横に振った。

「なかなか難しい問題ですね」
「はい」
「……ヒルスもレイちゃんも覚悟が必要かもしれません」
「えっ」

 思いがけない返答に、俺の声は変に裏返ってしまう。
 シスターは何となく言いづらそうな雰囲気で続けた。

「わたしが言うのもおかしいですが、知られてしまった事実を打ち消すなんて出来ません。わたしも、レイちゃんには辛い過去を知ってほしくはないです。しかしこのまま事態を止められないとしたら、現実に目を向けるしかありません。この先もずっと過去の出来事は残り続けるのですから」
「……シスター」
「わたしは、レイちゃんは強い子だと信じています。もしも彼女の中に眠るトラウマが蘇ってしまった時、あの子は深く傷つくかもしれません」
「俺もそれを心配しています」
「しかし、レイちゃんにはあなたがいるので大丈夫です」
「えっ?」
「どんなに辛い現実が待っていたとしても、あなたたちは二人で乗り越えられる。わたしには分かります」

 シスターのその言葉に、俺はハッとする。
 いつの日か、レイは俺にたしかに言ってくれた。

『お互いに支え合っていけたら、きっと私たち何があっても乗り越えられるよ』

 もしかすると、今が正にその時なんじゃないのか。
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